7月が、もう半分以上封を開けてゆき、
すっかり夏、夜もすぐに明けてゆく。
この季節は飽きがこないが、
そうしているうちにはくる。

北海道には四季があってないようなものなので、
東京で暮らし、「初夏」を五感で捉えることができてしあわせです。

東京では、北海道でいう雪と引き換えに雨が降ります。

東京には梅雨がある。どうしてなんでと考えていましたが、その理由は帰り道にわかりました。
雨は東京に、人々に「理由」をくれる。
昼間、あんなに人がいた道も、雨に洗われ、傘の下、しとやかに人々が家路へと向かう。
雨音は、猶予もくれるし諦めさせてもくれる。

そんな光景を目にして、東京に雨が降るわけを知りました。

全く関係ないですが、最近文章を想像して書くということがなかなかできていなかったため、即興小説で練習することにしました。
SSですが文章量多いのでお時間ある人、読んでください。

文章を描写し、書くことが大好きな私なのですが、
書くことはおろか、抽象的な文章にじっくりと向き合う機会をなかなかつくれていなかったのです。これはいけない。

そこで、即興小説トレーニングを利用し、制限時間・お題・必要要素をランダムに設定して時間内に書いてみました。

図工の町

お題:嘘の空想 制限時間:30分

水彩絵の具みたいな、図工で描くみたいな。

そんな町なのだ。私の住む町は。

水彩絵の具のようにじわりとにじむ色、穏やかな輪郭。

だがそれは、まるで「限られた自由」。かといって、強制されるような、窮屈で陰鬱な世界が描かれているわけでもない。だから私は、まるで図工で描くみたいな町だと思っているのだ。

図工の時間に、ある程度の条件が設けられ、その中で自由に描く、大好きでも大嫌いでもない。図工で描くみたいな。

図工で描くみたいなこの町で、かれこれ17年渡りつづけたこの横断歩道をいきなりインチキで美しいバレエをしながら渡ったとしても、この町の住人は誰も何も言わないだろう。怒りもしないし話しかけもしない。ただ、その景色を受け入れるのだ。やはりこの町は図工で描くみたいな町だ。

私は図工、別に好きでも嫌いでもなかったよ。

コンビニの前にある信号を渡る。

「あ」

水彩の中に突き刺さっている。

「あ」

信号を渡りきったその先。 私はその後ろ姿をつかまえた。

「あ」
「…え」
「あ」
「………しゅうちゃん?」

「あ」しか言わない私に、笑顔して名前を呼んでくれた。

彼女は、図工の時間を生きていない。
なぜなら彼女は

「久しぶり!!ねえ、すぐにわかった。ミコちゃんだって!」
「ふふ。しゅうちゃん相変わらず。元気だった?」
「元気だよ!ん〜、でもあれだな。『元気は有り余ってる』っていうのが正解。
高校、楽しいけど、特に何かあるわけじゃあない。高校も、私も。
ミコちゃんみたいに、」

彼女は

「ミコちゃんみたいに魔法使える女の子、他にいないんだもん」

ミコちゃんは、小学校の頃、ずうっと「私は魔法使いだ」って言っていた。
この世界に魔法があるかどうかなんてわからないけど、
ミコちゃんが魔法を使えるのだけは確かだった。
友達にバカにされたりいじめられたりもしていたけれども、
「だって本当に魔法が使えるんだから仕方がない」なんて言って。

この、図工の絵のような町にぐさりと言葉を突き刺した、私の大好きだった女の子。

「ミコちゃんはどう?高校楽しい?私立だよねその制服!すごくかわいい、だってほら、魔法使いにぴったりの赤くて大きいリボンだ」

ミコちゃんは、大きく瞬きをしてから、コンクリートに、おおよそ橙色の粒をこぼした。
それからゆっくりと口角を上げていう。

「…楽しいよ。魔法使いだもん」

橙色の水彩絵の具が図工の町に滲んでいった。

私は、彼女が図工の町に溶けていくような気がした。


あまり物語自体の説明を随所行っていくのはナンセンスなのでざっくりと説明しますと、

確かに美しい世界なのだけれども、それでもどこかぼんやりとした世界があって、それに対し反抗することも疑問を放棄することもできず、とりあえずこの町を受け入れている少女・しゅう。
その行為はまるで図工の時間のよう。出来上がったこの景色も。
そんな水彩絵の具の世界に刺さる彼女の後ろ姿。当時「自称魔法使い」だったミコだった。
しゅうの中では紛れもなくミコは魔法使いで、確かな輪郭があった。
ミコはしゅうの昔と変わらない期待や眼差しに笑顔していましたが、高校生です。
現在を生きるためには、高校という社会で生き抜くためには。魔法使いでは、いられなかった。
うまくいかない、誰にも知られたくない、美化しがたい毎日がありました。
笑顔しながら、夕暮れの中、涙をこぼします。
コンクリートに滲んだそれは、水彩絵の具のよう。
魔法使いも、図工の町に滲んでいってしまうのだった。

「嘘の空想」というお題だったので、空想と嘘の紙一重な感じ、そしてそれらはある意味の真実、現実であって、
そういうものを背負って生きる人間は強いのだなあと思います。
ここでいう「それ」はミコの姿勢です。

まず、書いている後半の時間で「ああ、主人公のしゅうが過去にミコが魔法使いだということを否定していたけれども現在はむしろ信じている」といった設定の方が自分は好きだったかなあと思いました。
そうすることによって、過去のことをしゅうが反省し、今だから言えることとして勇気を出してミコに対し謝る。しかしミコは謝られることにより、彼女の前で完璧な魔法使いであり続けなければならない。

表現方法としましては、
短編ということで、短い映像を見ているような、いきなり詩的心理描写(主人公の詩情、でしょうか)、セリフが飛び込んでくるようにしました。
一瞬、読み手を置いていくようなSSです。漫画にすると一番わかりやすい内容かもしれないです。

咀嚼する

お題:誰かのあいつ 制限時間:1時間

「夢を見たのだけれども」

ミラーボールの光の粒がちょうど箸の先端にくっついて、彼女はまるで星屑をお椀に入れて食べているようだ。

実際は、五穀米なのだけれども。

「うん。どんな」

ミラーボールの下で五穀米。もっというと、とんかつ定食。
ここは定食屋だ。
クラブのような、薄暗く、宇宙みたいな光で溢れている店だが、音楽はゆったりとしている。
真夜中に一人きりでプールに入っているみたいな温度の曲がゆらりゆらり流れるみたいな。

彼女は五穀米を飲み込むと、まっすぐ僕を見て口を開いた。

「食べる夢を見たのだけれども」
「食べる夢」
「うん。食べる夢。テーブルの上に、活字がね、いっぱい盛ってあったの」

皿の上の大根おろしを見つめて、それからもう一度僕を見て言う。

「おいしくも、まずくもなかった。こんな悲しいことがあるか」

「ぶは、なんだその言い方」

彼女の黒髪は、この宇宙みたいな光の粒をたやすく取り入れてしまう。

ここで食事すると、いつも思う。彼女は地球生まれの宇宙人なのか、宇宙生まれの地球人なのか、と。

そんなことを考えながら焼き鮭を白米にのせていると、彼女は少し唸って、とんかつをジャクリとやる。ひとしきりもぐついてから、ゆっくりと飲み込み、頷いていう。

「んん。まさに私が咀嚼したそれは『机上の空論』だったってわけだ。なるほどね」
「うまいこといってるし」
「味はうまくなかったけれどもね」
「おうおう。そんなきみに僕は匙を投げるよ」
「箸があるわ!だから、放棄してはだめ。
私とこんな風に話せるのはきみだけなんだもの」

僕は卵豆腐に十字を切った。

「…きみ、恋人とはこういう話をしないの」
「こういう話?」
「そう。昨日見たヘンテコな夢の話とか、ねぎろとが美味しくて泣いてしまった話とか、今晩はとんかつを食べたっている話とか、ああ、きみってば食べ物のことばかりだ」

静かに味噌汁の入ったお椀に顔をかげらせ、彼女はいった。

「あまり。彼は、くだらない話を嫌うから」

「…くだらないかな。とんちきだけれども理にかなっていて、きみの話はとても面白いよ。豊かだ」

彼女はお椀から顔を覗かせる。 そうして、また顔をお椀に埋めた。

「…楽しい?好きな食べ物を我慢して、その代わりに美味しいっていう言葉を口いっぱいにかくまっておいて、そんな、そんなのきみ、」

「仕方がないじゃない。 愛しているんだから」

焼き鮭を頼んで良かった。伏目でいても、許されるからだ。

「…きみ、僕の見た夢の話を聞いてくれるかい。僕が毎日見てる夢」

「ごちそうさまでした」


 
どんなに仲の良い二人でも、上手くいく二人でも、それがたとえ実質愛だったとしても、
名前の付いていない関係にはどうすることもできなくて、時に、真実の愛とは別にある確かな愛もあるということを書きました。
本当の愛はひとつじゃない。きっとどれも「本当」で、いくらつまらなくたって仕方がない、そういう世界もあるのだから。

「食べる」という行為は素敵なことです。大好きな人と向き合って食べるという大事な時間。食べたものがその人の細胞になり。
とても神聖な行為だと思っています。  
食べるところの描写にもっと力を入れたかったです。焼き鮭の油の美しさとか、口に広がる感じとか。


SSですが記事にすると割と長くなったので今回はここまでにします。
ピコピコした毎日ですが、それでも書くということは大切なので
これからもここにSSを投下していきます。
お時間がある時にでも気まぐれで読んでくださると嬉しいです。

しかし、数ヶ月ぶりに書いた感想としましては、即興といえどもかなり言葉に迷いが出てしまったと感じています。
以前までは三日に一冊は読んでいたので、また時間を作っていこうと思います。